ー水底(みなぞこ)に沈めた華ー 

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 なるべく人の多い所にいろ。  絶対に一人になるな。  俺が迎えに行くまで、絶対に。  それが登校中に久那が口にした注意だった。  久那によると、授業中は絶対に安全であるらしい。  相手が仕掛けてくるならば、休み時間か放課後。  だから絶対に友人と行動すること。  人目があればあるほど相手は動きづらくなるから。 「沙希、あたし達、部活行くけどどうする?  長谷君、今日迎えに来るの?」 「あ。私も部活、ついていってもいい?」 「いいけど、今日は大会のミーティングがあるから終わるの遅いよ?  沙希っていつも長谷君と帰ってるんでしょ?  待たせちゃったら悪くない?」 「終わるのって何時?」 「うーん、八時くらい?  終わる頃にはもう周り真っ暗なのは確実」  幸いなことに沙希の友人は多く、久那の注意を守ることはそんなに難しいことではなかった。  いまも吹奏楽部の練習に行こうとしている友人四人に囲まれている。  久那が迎えに来るまでの暇つぶしを兼ねて練習を見学しに行くことが多い沙希にとって、日暮までの時間を友人に囲まれて過ごすことは特に珍しいことではない。 「久那くんにはメールしとく。だから、私も行っていい?」 「もっちろん!」 「新曲を聞かせてあげるよ!」 「本当に? 嬉しい!!」  沙希はいつものようにはしゃいだ声を上げると席を立った。  その瞬間、まるでそれを見計らったかのように机の上に置いた沙希のケータイが震える。  表示を見ると、着信だった。名前は、長谷久那。  ドクンッと心臓が騒ぐのが分かった。
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