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死期が近いせいか、最近の沙希の未来視は安定していない。
三日前に自分の死を見た時から、自分が今いつの光景を見ているのか分かり辛くなっていた。
今この瞬間の光景も視たことがあるような気がするし、ないような気もする。
そもそも沙希の未来視は久那が思っているほど万能ではない。
確かに沙希が未来を視る頻度は高いが、全ての未来を視知っているわけではないのだ。
「ごめん……ちょっと、電話」
沙希は友人に断ると、ケータイを掴んで教室の隅に移動した。
「もしかして、ダーリンからのお電話?」
「ヒューヒュー!」
友人の冷やかしに苦笑で答えてから、窓辺に体を向け、通話ボタンを押す。
苦笑は、ケータイが耳に触れた瞬間に消えた。
「……久那くん?」
『長谷久那は預かった』
ケータイのスピーカーからこぼれてきた声は、久那のものではなかった。
「遠宮先輩、久那くんは、無事ですよね?」
『掃除人は、指令が下された人間しか殺せない。
だが、その他の殺しも、それを避ける道がなかったと判断されれば、黙殺される』
沙希の声は、震えなかった。
久那はよく『自分の声は機械音声だから』と冗談のように口にするが、おそらく今の沙希の声は、そんな久那の声よりも機械音声に近いと思う。
『今、この国で一番軽いものはなんだと思う? 赤谷沙希』
「脅さなくても、私が死ぬ未来は変わりませんよ」
『長谷家筆頭でも、そこに大差はないと思え』
すれ違いの会話は、一方的に途切れた。
場所は指定しなくても、視て知っているだろうと思ったのだろう。
具体的な指示は一切なかった。
沙希はケータイから耳を離すと、目の前の窓から外を眺めた。
いくつも伸びるビルが、沙希の視界を遮るかのように乱立している。
「沙希ぃ~、何だった? 誰だった?」
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