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友人の声に振り返ると、沙希はいつものように無邪気な笑みを貼り付けた。
「久那くんからだった。
今日の委員会、なくなったんだって。
玄関まで来てほしいっていう電話だった」
「え~、じゃあ、部活見学には来ないの?」
「残念だわ」
「ごめんね。また今度、誘って?」
「しゃあないなぁ」
「いつでも来ていいんだからね?」
沙希は鞄を掴んで友人達に手を振ると、教室を後にした。
階段は下りずに、適当な空き教室に入る。
鞄の中には、教科書に紛れて見慣れないファイルが入っている。
沙希からの言葉を元に沙希の死地を予測した久那が、それらしい物件の情報をプリントアウトして渡してくれた物だ。
日付が変わるまでは絶対にこの周囲には近付くな、という言葉とともに渡されたそれを、沙希は丁寧にめくっていく。
特に注意して見ているのは、周辺地図と外観写真だ。
説明文は最初から読まない。
「……あった」
沙希が視たビルは、最後のページに印刷されていた。
空に向かって伸びる、スパイラルビル。
隣にはこの辺り一帯で一番の水量を誇る大河が流れている。
「……ごめんね、久那くん」
久那はこんな風に自分の情報を使われるとは、夢にも思っていなかっただろう。
万が一久那が人質に取られた時も、絶対に応じるな、掃除人は必要以上の殺しを絶対にしないのだから、と言い含められている。
「でも私、久那くんを放って一人で逃げることなんて、……できないよ」
沙希はそのページを引き抜き、丁寧に折り畳んで胸ポケットに入れると、教室を後にした。
初秋の日差しは、まだ暮れない。
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