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「長谷久那、確かにお前の未来視は、恐ろしいくらい精確だ。
お前が長谷の情報屋として動いた案件も調べさせてもらったが、能力を持たない凡人がした未来視にしては、出来過ぎだと思えるほどの正答率だった。
そんなお前の欠点をあえて挙げるのであれば……」
対して、久那を挟んで鈴見綾と対面するように立つ遠宮龍樹の瞳に、感情というものは一切ない。
ああ、彼は長谷家が生きる世界と同じ世界の住人なのだなと、本能の部分がやっと理解した。
それを嘲笑うかのように、遠宮龍樹の腰に下げられた日本刀が、カシャンとわずかに音を立てる。
「好意的な感情に疎い。
だから、その好意から起きる行動に対する予測が甘い」
久那は思わず、フェンスの向こうに広がる光景に視線を走らせた。
おそらくここはビルの屋上だ。
直径五十メートルくらいの円形。
その全面が屋上庭園になっていて、中心に当たる位置にエレベーターの扉が見えている。
周囲のビル群との対比から考えるに、高さはおよそ三十から四十階。
向かいのビルのガラスに反射して見える景色は……川だろうか。
「……アクア・インスパイアビル……っ!!」
沙希に渡した情報の中に、確かにその物件も入れた。
あの中に川岸に立つビルは、アクア・インスパイアビルしかない。
「童話の中にも出てくるように、逃走防止には高くて逃げ道のない場所にホシを隔離するのが有効だ。
だが今回のお話に出てくるホシは、四階程度は高いと感じないらしい。
緊急脱出経路がなく、二十階以上の建物で手頃な物件はこれしかなかったんだ」
久那がわずかな情報から自力で現在地を割り出したというのに、遠宮龍樹はそのことに特に驚く素振りは見せなかった。相変わらず面倒臭そうに久那に据えていた視線が、スッと滑って別の場所に向かう。
「しかしお前、本当に有能なんだな。
『リコリス』の『黒』側が泣いていたぞ。
お前達の行動範囲圏にある監視カメラは、全て機能停止。
やっと学校に向かっていると割り出しても、人目のある場所から外れないから力尽くで拉致するわけにもいかない。
無線も妨害されて、本部と俺達は連絡がつかない。
おかげで俺達の苦労が増えた」
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