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振り返ると少女は、声と同じくらい凪いだ顔で俺のことを見つめていた。
「たしかに、このことりさんは、あと三分二十七秒後にしんでしまう。
でも、わたしは、あきらめない」
「……お前、もしかして、本当に俺のこと知らないのか?」
少女は俺の言葉にフルフルと首を横へ振った。
癖のない、新月の夜空のような色の髪がサラサラと音を立てる。
「ひさなくん。しってるよ。わたしとおんなじってこと。でも……」
静かな瞳に静かに意志を宿らせて、その少女は静かに言葉を紡ぐ。
「わたしがあきらめずにがんばったら、みらいはかわるかもしれないもの」
人の命が空気よりも軽く扱われるこの時代の中で、彼女は小さな小鳥のために未来を変えることを諦めないと言い放った。
今から思えば、少女の方が俺よりよほど子供らしくなかった。
あの静けさも、意志の強さも、言葉そのものも。
「だからわたしは、あきらめない」
実際に、少女はあの年で子供であることをやめていた。
思い返せば無邪気なように見えて、無邪気な所なんてひと欠片もなかったような気がする。
少女は出会った時から、今とまったく変わらなかった。
未来は変えられないと思っていた、不完全な未来を見る偽物の未来視少年。
その少年の根底をひっくり返した、完全な未来を視る本物の未来視少女。
だから俺は、忘れない。たとえ彼女がこの出会いを忘れてしまっても。
あの時叩き付けられた言葉が、俺の全てを支えているのだから。
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