15人が本棚に入れています
本棚に追加
「……俺がもっと出世したら、赤谷沙希の価値は上がりますか?」
長谷久那を『沙烏』として『リコリス』に推薦したのは龍樹だ。
情報屋・長谷家の筆頭。
その情報処理の腕前と先読みの頭脳は、片付けてしまうにはあまりにも惜しい。
その主張は推薦人である龍樹の位の高さもあり、あっさりと受け入れられ、長谷久那は『沙烏』となった。
沙烏は、自身の人質として赤谷沙希を『リコリス』に差し出すことで、赤谷沙希を生かした。
「上がるだろうな。
上の位官にある人間ほど、『リコリス』は手放したくないだろうから」
「……じゃあ、頑張ります」
一人の少女を明るい世界で生かすためにこの道を選んだ少年は、強要されているわけもないのにこの部屋から一歩も外へ出ようとしない。
五台のモニターから情報を集め、また五台のモニターから必要な情報だけを必要な所に配信する。
その先読みの力はこの半年でさらに研ぎ澄まされていた。
沙烏の先読みは『予言』と呼ばれ、『リコリス』内ではすでにその予言は絶対に外れないものとして扱われている。
「赤椿、個人的な興味から、一つ訊いてもいいですか?」
その予言者が、ふいに口を開いた。
沙烏の声は、まるで沙烏自身が機械であるかのように、人間味というものが一切ない。
「あなたはなぜ、『赤椿』という最強の肩書きがあることを鈴見綾に伏せ、まるで鈴見綾と同格の掃除人であるかのように振る舞っているのですか?」
未来を視透かす沙烏には、分からないことなど何もないと言われている。
だがその青年が今、龍樹に向かって問いを口にしていた。
「……掃除人から見ても、『赤』の名を持つ人間は恐怖の対象であるらしい」
龍樹が長谷久那……沙烏を見た時に最初に抱いた感想は、『似ている』という一言だった。
決して一般人が踏み込むことのない世界で生きている所。
それ故に感情が欠落している所。
感情がない故に周囲より情報処理能力が高い所。
そんな機械のような人間なのに一人の女性(ヒト)を深く愛しており、そのヒトのためならば何よりも執着する自分の命さえ惜しくはないという所。
「お前にとっての赤谷沙希が、俺にとっての鈴見綾だ。
……お前の場合とは、多少順序が違ったが」
最初のコメントを投稿しよう!