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でも今は、それほど自分と沙烏は似ていないと思う。
「後の意味は、自分で考えろ」
龍樹はそう切り捨てると戸口から身を翻した。
どんな機材を使っても破れそうにない鋼鉄の扉が、自動で閉まっていく。
水底のような部屋は、沙烏を呑み込んだまま闇に閉ざされた。
殺風景なコンクリートの階段に取り残された龍樹は、扉にロックがかかったことを示す緑のランプが灯ったことを確認してから、その階段を上り始める。
「俺はそのことを自覚しているが、あいつはそのことを理解できていない」
おそらく沙烏は、今の龍樹の答えでは、自力で正解を見つけることはできないだろう。
赤谷沙希のために全てを投げ打っておきながら、沙烏は結局今でも自分が赤谷沙希に向ける感情が何なのか理解していない。
龍樹は綾と出会うことでその感情を理解できたのだが、沙烏はどうやら赤谷沙希と出会っても、理解まで落とし込むことはできなかったらしい。
「だから、あのタイミングで割って入ったんだ」
今でも折に触れて綾に怒られることを思い返し、龍樹は小さく溜め息をついた。
大分階段を上ったが、その間に何枚の扉が閉まったのだろう。
今振り返っても、一番表層にある扉が薄闇の中にぼんやりと浮いている様しか見えない。
地下深くに閉じこもる沙烏は、まるで『久那』という過去を闇にうずめて隠しているように見える。
龍樹に透視や未来視といった能力はないが、沙烏が自身の取る行動の意味さえ分かっていないのだろうということは、本人を見ていれば分かった。
なぜ赤谷沙希のために全てを捨て、そのことを全く後悔していないのか、沙烏自身は理解していないのだ。
そのことを、龍樹は哀れに思う。
だが、龍樹が何を思っても現実は変わらないし、龍樹が何を言っても沙烏は己の不可解な行動を理解はできないだろう。
綾は信じてくれないかもしれないが、世の中にはそういう人間もいるのだ。
これはどうしようもないことなのだから、仕方がない。
龍樹にできることは、その現実が少しでも綾の目に触れないようにそっと目隠しをすることだけ。
それが自分のエゴだということも、充分に分かっている。
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