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沙希と接点がないというだけではない。
沙希が『彼氏』と名を上げた人物に愛だの恋だの告白だのといった言葉がどうにもしっくりとこないのだ。
「……沙希の言葉は、真実だったのか?」
呟いて、瞳を開く。
闇に慣れた瞳にぼんやりと見慣れた天井が見えた。
「沙希の目には……どんな未来が視えている?」
昔から久那は『未来を視る少年』と言われてきた。年を経た今でも、その称号は錆つくどころか、逆に磨きがかかっている。
だが実のところ、久那には未来なんて視えていない。
そんなものが視えるのは沙希の方だ。
その沙希は視えることを決して公にはせず、楽しい未来が視えた時は一人ニコニコとその瞬間を待ち、悲しい未来が視えた時はその未来を変えるべく一人奮闘するということを続けてきた。
幼い頃、沙希の勘違いで沙希の口からその能力について聞かされ、偽物の未来視で沙希が視たものと同じ未来を予測できた久那だけが、そんな沙希を見守ってきた。
ずっとずっと、幼い時から高校二年生になった今まで、ずっと。
でも今の久那には、沙希が視ているものが分からない。
これが、本物と偽物の違い。
「……俺は、お前が視ているものを見たいよ、沙希……」
何がどうなっても、これが偽らざる久那の本音。
そのことを深呼吸三回分の間で確かめた久那は音も立てずに立ち上がると、机の上に置いた眼鏡を手に取り、部屋のドアを開いた。
「……悪いな、沙希。俺、最低の人間だ。でも」
廊下に出て、階段を下り、私室よりよほど使用頻度の高いその部屋のドアを開く。
中からこぼれた青白い光に目を焼かれたような気がしたが、数秒後にはその明るさが目に心地良くなっていた。
「俺は俺の方法で、沙希が視たものと同じものを見るよ」
三台のパソコンに対し、椅子は一脚だけ。
その椅子を引き、腰を落ち着け、キーボードへ手を伸ばす。
久那が長い暗号をよどみなく打ち込んだ時、三つの画面には久那が通う高校が映し出されていた。
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