ー水底(みなぞこ)に沈めた華ー 

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 久那の未来視は、超能力という点から見れば偽物だ。  沙希の純粋な未来視とは違う。  久那の実家、長谷(はせ)家は、その筋では有名な情報屋の一族だ。  ありとあらゆる情報を取り込み、複合させ、より現実に近い未来を予測する。  能力ではなく、情報処理から得られる未来視。  久那の情報処理能力は、長谷家の中でも群を抜いているという。  それが『未来を視る少年』の所以だ。  久那は過去から未来を見る。  だから突然転がり込む運命を、久那は視ることができない。  運命を視透かすことができるのは、沙希の未来視だけだ。 「いたく、ないの」  だから、沙希は知っている。  どれだけ足掻いても、未来は変わらない。運命は変えられない。  口では『諦めない』と言っていても、心はすでに折れていた。  ただの惰性で、未来を変え続けようとしただけで。  だから、変わらなくてもいい。  変えられない範囲で、大切な人を守るために足掻こうと決めたから。 「ここから出ていって……っ!!」  心が痛んでも。  その痛みに泣いてしまいそうになっても。  これが久那のためなのだから、やらなくてはならない。 「昨日の放課後、沙希は校舎裏になんて行っていない。遠宮先輩もだ」  だというのに久那は、そんな沙希の行動を許してくれない。  退路を断つ言葉とともに一歩ずつ、久那の足が沙希の逃げ道を消していく。 「授業終了後から俺と沙希が校門をくぐるまで、学校の監視カメラの映像は全てチェックした。  沙希は俺が迎えに行くまでずっと教室にいた。遠宮先輩もだ。遠宮先輩はお前が校門をくぐるまで教室から動いていない」  何かと物騒なこのご時世、学校内にも監視カメラがあるのはもはや常識だ。  その画像を手に入れることくらい、久那には息をするよりも簡単にできてしまう。  未来視だけが久那の十八番だと思ったら大間違いだ。  学校のデータベースなんて、入学してひと月たった頃には、すでに久那の頭の中にインプットされていた。 「遠宮先輩に告白されたなんて、沙希の嘘だ。  沙希は誰とも付き合ってなんかいない。  だから俺が沙希から遠ざけられる理由なんてない」
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