三章

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「山南さん、沖田です。今、大丈夫ですか?」 「あ、総司ですか、良いですよ。」 部屋にはいると覇気のない山南さんが、寂しげな笑みを浮かべて座っていた。 山南さんは、手を怪我して刀を握ることが出来なくなった。 だからか、部屋に引きこもることが多くなって、土方さんとも喧嘩ばかりしてる。   「どうしたんですか?」 「あ、聞きたいことがあって。」 「なんですか?」 山南さんの向かいに座ってそう言えば、少しだけ嬉しそうに笑う山南さん。 その笑顔に安心しながら、意を決して口を開く。 「山南さん…。長州の幕府に殺された、この時代を終わらせたがっていた先生と呼ばれる人のこと知っていますか?」 「意外な人物のことを聞くんですね。えぇ、知ってますよ。安政の大獄で殺された吉田松陰先生のことでしょうね。」 吉田松陰…。 桜と名字が一緒だ。 「どんな人なんですか?」 「私も一度しかお会いしたことはないですが、とても学術高く、聡明でお優しい方です。先を見通す方でしたから、幕府の結んだ条約が危険だと死の間際まで、訴えていたらしいです。」 「その先生の教え子たちって…。」 「全員、倒幕を掲げていますね。表向きには、尊皇攘夷でしょうが、目的は倒幕だと思います。特に、過激派の筆頭にいる、高杉晋作、入江九一、久坂玄瑞は、表立って行動を起こしています。 それに、もう一人。 吉田先生の愛弟子とも言われている、聡明で最も過激派を煽っているのは、吉田稔麿です。」 その瞬間、桜の正体が分かってしまった。 吉田桜は、吉田稔麿なんだ。 過激派を煽って倒幕をしようとしているんだ。
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