三章

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逃げるように山南さんの部屋を出て、自室にたどり着く前にしゃがみ込む。 「っ!…はぁぁ…くっ。」 涙とともに嗚咽が漏れる。 胸が苦しい。 涙が止まらない。 桜…。 「何、泣いてんだ。お前。」 頭上から聞こえてくるのは、低い土方さんの声。 「放っておいて下さい。」 「強がってんじゃねえよ、身を切るように泣いてるくせして。話くらい聞いてやる。」 土方さんの大きな手が、僕の頭をポンポンと撫でる。 「僕の抱えているものに気付いてくれて、それを受け止めてくれる人がいたんです。」 人を斬ることが怖くて、でも、認められなくて笑顔で隠してた僕の本心を、見抜いて、弱くないと言ってくれた桜。 「いつも無表情で、掴み所が無くて秘密ばかりなのに、僕の話は聞いてくれて、辛さに気付いてくれるんです。」 いつもいつも無表情で、話を聞いてて、励ましてくれるから、僕は心から笑えるようになったと思う。 「その人は、ある目的のために命を捧げるつもりなんです。あと一ヶ月もしたら彼女は居なくなるんです!やっと、胸が痛くなるわけもドキドキする訳も気付いたのに、彼女は居なくなるんです。」 こんなに好きなのに、彼女は居なくなる。 「そいつを止めること出来ねえだろうな。だったら、その思いを伝えるべき何じゃないのか?」 煙管を吹かしながら、僕に問いかける土方さん。
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