三章

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神社には初夏の風が優しく吹く。 相変わらず木に寄りかかっている桜の黒髪が揺れる。 「桜…。」 「何?…っわ!」 桜が振り向くより前に思いっきり抱き締める。 この二週間。 ずっと考えてた。 言わな言ほうがいいのかなとか… でも、やっぱり伝えたかった。 「総司?」 「桜…。好きです。桜が死ぬつもりでも居なくなっても桜が好きだ。」 「つ!」 桜が思いっきり息を呑んだのが分かる。 抱き締めるだけじゃ足りなくて少しだけ、桜から離れて口付ける。 「ん…。…はぁ。」 唇を離せば、少しだけ潤んだ瞳をした桜が真っ直ぐに僕を見る。 「私のこともう分かってるんだよね。」 「分かってますよ。あなたが吉田稔麿だって事も、命と引き替えに倒幕に傾けようとしてることも、全部分かってます。」 「私は、君の敵だよ。」 無表情な桜の瞳に涙が溜まっていく。 「それも知ってます。だから、残りの時間を僕にくれませんか?会える時間全てを、僕に…。」 「そんなことしたって私は、死ぬんだよ!」 初めて声を荒げた桜の頬に伝う涙を親指で拭う。 「全部分かってます…。それでも、あなたの時間が欲しいんです、桜。」 「総司…、君は馬鹿だよ。」 「知ってます。」 「総司…、好き。」 「それも知ってます。」 軽くほほえみ桜に口づけをする。 僕の背に回った桜の腕を、柔らかい唇を僕は、永遠に忘れることはないだろう。 残された時間は、想像より短かったとしても。
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