ズックにロック

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学園祭も終わって、すっかり熱気の冷めた軽音楽部の部室に渋谷はいた。所属しているわけではないが、音楽の趣味が合う後輩の安田に会いに部室に出入りすることは多かった。 自慢げに並べてあるCDや譜面を物色しつつ、持ち主の軽薄な趣味を鼻で笑うのにも飽き、カビ臭いソファに転がって独りごちた。 (マル、俺、18になったで) * 「あっ!しぶやーん。起きたぁ?来てたんやぁ」 「んー」 いつの間にか眠ってしまっていた渋谷を覗きこんでいたのは、校則ギリギリの明るい前髪を揺らしている安田。愛嬌のある笑顔で周りを魅了し、とびっきりの優しさで誰彼かまわず世話を焼くため、人見知りの渋谷ですら心を開くほど、校内で信者の多い男である。 「ヤス、また髪イタズラしたか?」 「してへんよぉ~。シャンプーしてると色抜けてくねん」 渋谷は安田の間延びした応答に思わず笑いながら、脱色された頭をポンポンと叩いた。安田はくすぐったそうに笑う。 渋谷は小脇に抱えていた袋を取り出して安田に手渡した。 「しぶやん、これ?」 「誕プレ。遅なってごめんな」 「うせやん!ありがとぉっ!うわうわわ、コレ欲しかったヤツ!」 渋谷の選んだCDに甚く感動する安田を見て、自然と渋谷の顔も綻ぶ。 「なぁなぁ。軽音部入ってぇやぁ」 「3年の俺が今更入って何になんねん」 「しぶやん人気者やからさ、しぶやん目当てで入ってくるかもしれへんやん?」 「そんな効力あるか。あそこに並べてある趣味の悪いCDの持ち主はもぉ来ぉへんのか」 先般の学園祭で開かれた軽音楽部主催のライブに、安田の計らいもあり渋谷は飛び入りで参加した。ただ、その歌声があまりに凄まじく、陳腐な仮設ライブハウスは一気に想像以上熱狂の渦に包まれた。 「たぶん、もう来ぉへんのとちゃうかな…」 渋谷の歌唱に嫉妬したボーカルが、ドラムとベースを引きつれて軽音楽部を退部したのは一週間前のことだ。 「ボーカルは俺もやれるけど…ベースとドラムが抜けたんはキツイ!キツイでぇっ!」 「どっちも人口少ないからなぁ」 「そーやねん、ドラムなんてホンマ少ないし。誰か知らん?」 「んー。ベースなら知らんでもない」 「ホンマ?」 「あー、でも年齢制限あるなら話は別やな」 「ナニソレ」 安田が渋谷に質問を投げかけようとした時、遠くで自分の名を呼ぶ声に気がついた。 「章ちゃぁ~ん!」 同室の錦戸だ。
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