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「亮、どしたん?」
息を切らせて走ってきた錦戸に、安田は首をかしげ、不思議そうに問いかける。
「お前、俺の上履きっ!」
「あっ!」
錦戸が履いていたのは、安田がリメイクした圧巻の配色の上履きだ。前述の通り錦戸と安田は同室であるが、今朝、先に部屋を出た安田が錦戸の上履きを履いていってしまったため、錦戸は今の今まで安田の派手な上履きを履き続けて相当恥ずかしかったと言う。
「こんなハデなん履かれへんわっ!」
「履いてるやん」
「はっ!すばる君!なんでいてるの?」
「アカンか?」
「アカンことない、アカンことないですっ!」
渋谷に静かにツッコミを入れられ、校内で一、二を争う端正な顔を赤らめる錦戸。
生真面目な彼は、渋谷の不良性に容貌も含め多大な憧れを抱いているようである。
「ヤス、亮入れたら?」
「それは前から俺も誘ってるんやけどな、生徒会とか忙しいんやって」
「そんなんヒナに任しとったらええやん」
安田に軽音楽部に誘われて断っていたことを、こんなところで話題にされ途端に立場が悪くなった錦戸は、眉と目を下げて情けなく抗議する。
「村上君やって3年やもん、受験とかで色々あるし、2年の俺がイニシアチブとらなあかんねん」
「ほぉか。じゃ、ヤス、俺帰るわ」
「お、おん。しぶやんコレ、ありがとぉ」
安田の礼を聞き終わる前に立ち上がって帰ろうとする渋谷の腕を、錦戸は慌てて掴んだ。渋谷は振りかえり、何も言わずに錦戸の顔を見つめる。
「…」
錦戸は渋谷に見つめられてしばし陶然としていたが、自分のしたことに気がついてまた赤面し「ごめんなさい」と言って手を離し、気持ちを落ちつけてから話を続けた。
「俺も生徒会室戻るから、一緒に行く!お前、上履き早よ脱げよっ!うわっ、ヌルいっ。この上履き、ヌルっ!」
錦戸は安田に向かって上履きを脱ぐよう指図し、脱ぎたての自分の上履きに嫌悪感を露わにしつつ、渋谷の後ろ姿を追って部室を出た。
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