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「こんばんどぅいーん」
ふざけた挨拶に安田が振り向くと、ベースを抱えた丸山が部室前に立っていた。
「やっぱりマルか」
「やっぱりって」
「しぶやんに言われて来たんやろ?」
「正解。迷わず行けよ行けばわかるさ、と言われました。」
「なんで猪木?」
「わからへん」
丸山と安田は地元が一緒だったため、安田がこの高校に入学する前からの仲である。お互い良い意味で気を使わず、プライベートも相談し合っていた。
「しぶやんがベース知ってるって言うからマルかなとは思ったんやけど…顧問でもない先生がいるバンドってどないやねん」
「ええんとちゃう?久しぶりにベース触るから楽しみやねん。ちょっと練習させて」
「ええけどさ。……しぶやんとはどうなん?」
「えっ」
ベースを袋から取り出していた丸山の顔が途端に真っ赤になる。
「まだなん?」
「もーっ!言わせんなよっ、俺とお前だけのアレやろっ?」
「あー、まだかぁ」
渋谷と丸山は1年ほど前から交際している。2人の関係を知っているのは安田だけなのだが、そのプラトニック過ぎる関係性を安田は心配していたのだった。
「すばる君、可愛すぎて…アカンねん、アカンねん…。そんなんしたら、歯止めきかんと思うねん」
真っ赤な顔を両手で覆ってしゃがみこんでしまった丸山の肩にそっと手を置き、安田は優しく話し出す。
「だいじょぶなんちゃうか?しぶやん、しっかりしとるし。マルの出方、待ってると思うで?マル次第やと思う」
「どっちが先生かわからんな、この会話」
「ホンマやね」
「ヤスはどうなん?そこんとこ」
「今?俺?ギターが恋人さん♪」
安田はメジャーコードをかき鳴らす。
「つまらんなぁ、お前も見つけろよっ。恋はええでっ♪」
丸山は4弦をブリブリ言わせながら安田に恋を推奨する。
「ヤス、モテるやろ」
「んー。そうなんかなぁ」
「亮ちゃんとはどうなん?あんなハンサムと毎日一緒の部屋で寝てて変な感じにならへんの?」
「ないない。今日も上履き間違えて履いてしまって、怒られたし」
「イラチなんや」
「イラチやなぁ。俺が飯食わんとめっちゃ怒るし」
「それはヤスのこと心配してるからやと思うで?」
「あんまり食うと気持ち悪なるからさぁ~」
「好きな人できたらいっちゃん最初に教えてな?」
「できたらな」
2人の簡易セッションは小一時間ほど続いた。
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