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チャイムが鳴った途端に廊下に飛び出す色白教師を、大倉は慌てて呼び止め、その白い腕を掴んだ。
「せんせっ!」
「なんや?」
「逃げんといてくださいよ!」
「追っかけられたら逃げるわ!」
「勘違いしとるみたいやから言うときますけど。先生の授業おもんないから寝てるんちゃいますから」
横山は意外な発言に呆気に取られていた。
「なんなん?」
「どの授業でも寝てます」
横山がホッとしたような、情けないような表情を浮かべているのを見て、大倉は無駄にさわやかに口角を上げた。
気恥ずかしさから視線を逸らしていた横山は、軽薄なオレンジ色のジャージを着た男が不可解なステップで近づいているのに気がつき呼びとめた。
「マル?」
「こないだ体育でも寝たよな、たつよしは」
「あっはっは!ちゃうってぇ。」
「アレ?ちゃうかったっけ?」
「ちゃうやん。俺が動きたないて言うたら、マル、優しいからゴールキーパーにしてくれてん。俺のチーム、サッカー部の奴らが多かって、暇やったからゴールのペンキの剥げたところ剥いとったら、思いのほか集中してもうて、気ぃついたらゴールされてたっていう…」
「大倉、お前寝てるより酷いわ!」
「アッハッハ!」
「ゆうちん~!墾田永年私財ほうっ!」
じゃれつく丸山を無視する横山を見て大倉が豪快に笑うので、丸山のテンションは上がり、動きはまたぞろ活発になる。
「王政復古の大・号・令!」
「いきなり明治に飛ぶな」
「あっはっはっ!」
「小牧長久手の戦いっ!」
「戦国戻るな」
「あっはっはっ!はーぁ。意味わかれへん」
調子に乗った丸山はその後も奇行を繰り広げたが、腹ペコ王子が食堂に向かっため、以降は不発に終わったのだった。
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