午前3時のファズギター

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* 「ウルサイ」 深夜に響く濁ったギター音で大倉は目が覚めた。 のそっと大きな体を起こし、ノロノロと部屋を出る。どうも近くで爆音演奏している輩がいるようだ。 深夜の不気味さに少々びくつきながらも音が聞こえる非常階段に近づくと、そこにはヘッドフォンをした小柄な男が練習に没頭していた。ヘッドフォンのコードは残念ながらアンプから抜け落ちている。 「アホなん?」 大倉は急に愉快になり、小さな体の割にはしっかりした肩を掴んだ。ヘッドフォンをしまたまま顔だけを大倉に向けた小柄な男は、驚きでアーモンド型の瞳を見開いている。 (あ、この人知ってる。軽音部のヤスダ君や) 「ナニ?」 ヘッドフォンをしているせいで声が大きくなっている安田に『音!漏れてる!!』と大倉が口パクとジェスチャーで現状を伝えると、安田は飛び上がり、慌ててアンプの電源を切った。 「うわ!だから音ちっさかったんや…」 「んふ」 「今、お前笑ったやろ」 「笑ってません。てゆうか、こんな時間に何してはるんですか。安眠妨害ですわ」 「ごめんなぁ。なんかムショーに弾きたなってな」 「音に怒りを感じました」 「ホンマ?そんなん伝わるんやね」 安田がギターを袋にしまいながら、『オレ安田。自分、一年やろ?名前は?』と訊くので『大倉』とだけ答えたあと、聞かずとも校内の誰もが知っている軽音部の事情をあえて尋ねた。大倉も学園祭での安田と渋谷のパフォーマンスを指をくわえて見ていた一人だったからだ。 「ドラムとベースがぬけてもうて。ベースはなんとか補充でけたけど、肝心のドラムが…。なぁ!ここで会ったのもなんかの縁やし、お前ドラムやらへんかぁ?」 「えッ!無理やって!そんなんやったことないし!」 「俺のギターに怒りを感じるなんていうてくれたのおーくらが初めてやで?」 『考えてみて?』と安田の濁りのない大きな瞳にのぞきこまれて大倉はたじろいだが、その瞬間腹の虫が騒いだ。 『ぐーーーーーーーー!』 安田はその音の大きさにケラケラ笑い、「食うか?」と、アーモンドのチョコレートを差し出した。戸惑う大倉に安田は微笑んで一粒口に放り込むので、大倉もつられて一粒頬張った。 「明日、先約なかったら昼飯一緒に食わん?今日のおわびに奢るわ~。あと、ヤスって呼んでな。敬語使わんでええで」 大倉は全開の笑顔で二つ返事した。 (信ちゃん、俺、友達できそうやで)
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