ボーンズ

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「う!わ!なんやなんや!」 渋谷が音楽倉庫、略して“オンソウ”の厚いドアを開けると、ドラム音の圧で思わず後ずさりをした。 「あ。すばる君」 「大倉か。頑張ってんな!めっちゃ音に厚み出てきたわ!」 安田に餌付けされたとも絆されたとも言えるが、大倉は新生軽音部のドラマーとして、着実に練習を重ねていた。 ただ、渋谷や安田とセッションができるには程遠い技量で、先日初めて音合わせをした時、大倉はあまりの自分のできの悪さに愕然とした。 その時安田は 『今のおーくらは“今のおーくら”やから。できることやったらええんよ。できないことは“でけへん”。それでええんよ』 と慰めてくれたが、大倉はそんな安田の優しさに甘えたくはなかった。 その日から部室ではなく“オンソウ”に籠って練習する日が続いた。オンソウを昼寝場所にしていた渋谷が大倉の練習に付き合ってくれるようになったのはそんな頃だ。 『何回も練習するしかない。イチローかて、練習せんかったらヒットは打てへんと思う。お前がイチローとは言わへんけどな』 と和ませつつ、渋谷は根気良く付き合ってくれた。 『やりたい言うて、自分で入ってきたんやろぉ!ダメなとこはダメって言うからな!』 一年の、それも初心者にとっては厳しい言葉も飛んだ。 だが、渋谷の言葉を不思議と素直に受け入れることができる大倉だった。
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