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「マル!」
「亮ちゃん♪どしたん?」
部活終わりの丸山に、錦戸が子犬のような笑顔で駆け寄ってきた。
「マル、今日宿直やろ?遊びに行ってもええ?ラーメン食いに行きたい!」
全寮制の高校だが、ほとんどの教員は自宅から通勤をしている。だが、一ヶ月に一回ほど宿直の当番を課せられており、土日を学校で過ごすのだ。
「ああ~。今日はやることようけあるからアカンわぁ~。ごめんな。ラーメンはまた今度行こな。」
「ええ~!」
丸山の宿直当番を心待ちにしていた錦戸は、垂れた目を更に垂れさせて悲しげな表情を浮かべる。その顔を見て、丸山は良心の呵責に苦しむ。
(すばる君と逢引するなんて言えへん!)
「あっ!なぁ、すばる君がさ、マルんとこの風呂使こてるて聞いたんやけど」
「あっ!」
まさかの渋谷の話題に丸山の脂汗は止まらない。
「ホンマなんや…」
「亮ちゃん!それ、ホンマあかんことやねん!ばれたら俺、この学校おれへんくなるかもしれへんっ」
「ちょ!そんなアブナイことなんでしてるん!」
「だってすばる君が…」
「そんなん、すばる君にも言わなアカンやん!マルがおらんようになって一番悲しむん、すばる君かもしれへんで?」
「亮ちゃん…。でも、大人はできることとでけへんことがあってね…」
「なんやねん、ソレ!もうお前人間やめろ!」
暴言を吐いてその場を走り去る錦戸を、丸山はただ呆然と見ているしかなかった。
(亮ちゃん。せやねん。俺、人間やめなアカンこと、すばる君にしちゃってます。ホンマ、悪い大人なんです。)
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