うそが本当に

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夏休み直前。 数名の女性教員を除けば男しか生息していない校舎は、浮かれる生徒達の、青春の、と形容するにはあまりに臭気を放つ汗と砂と埃にまみれていた。 横山は担任する村上を、教室でひとりポツンと待っていた。 早く来すぎていたのだった。 村上は忙しい。 勉学を怠らないのは当然のこととして、生徒会の活動に加え、サッカー部に所属し、自慢の八重歯をむき出しにして、日々生を謳歌している。 横山は村上の成績と内申をまとめた資料をぼんやりと眺めながら、彼を推薦枠のある大学に薦めてやりたいと考えていた。 ただし、そこは村上の志望校ではない。今日は村上を説得できるか否か、自分の教師としての力量が問われる。 横山は32歳の割には幼い色白の顔を強張らせ、生徒相手に妙な緊張をしていた。
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