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安田が学生寮のトイレで用を足していると、村上が豪快に扉を開けるなり、がに股で進みつつ安田の隣に立った。
「おう、ヤス。久しぶりやな」
「信ちゃん、調子はどぉ?」
「まぁまぁやわ」
「通知とかは」
「ぼっつらぼっつら。滑り止めはいけたけど。まぁ、滑り止めやし。第一志望の発表、明日やねん」
「そうかぁ~。キンチョーするなぁ。でも、信ちゃんならダイジョブちゃいます?」
「俺もそう思う」
安田は予想通りの返事に安心して笑い、ズボンのチャックを上げて洗面台へ移動する。
「なぁ、信ちゃん。仮に、やけどなぁ。好きな人にされて、嫌なことってある?」
意外な安田の発言に、村上は顔を安田の方へ向けた。
「暴力ぅいうのんは、いただけんなぁ。それ以外やったらかまへんのとちゃう?」
「ホンマ?」
「なんや、なんか悩んでんのか?」
「なんやろな。自分でもようわからへんねん」
村上は安田の不安そうな横顔を一瞥してから正面を向き直し、説き伏せるように話しだす。
「俺は、相手がホンマに望んでることやったら、ガチでぶつかっていきたい思とるよ。結果な、俺が凹むようなことになっても、相手が傷つくより、マシやんか」
そう言って用を足し終わった村上は身体をぶるっと震わし、しばらく立ちすくむ。
「ヤス」
「ん?」
「俺、会いたいんかなぁ?」
「……」
(西野カナなん?西野カナ的な“会いたくて震える”って意味で言うてんの?)
と、流石に突っ込む勇気は安田にはなかった。
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