96人が本棚に入れています
本棚に追加
/80ページ
*
錦戸はさして興味のない小難しい本を読みながら、睡魔に襲われるのを待っていたが、なんだか手足が冷え切ってしまって、なかなか眠くならないので困っていた。
読書にも飽きたので、ブックライトを消して布団をかぶってしまおうと思った時、ふと、隣のベッドが気になった。
「章ちゃん…起きてる?」
「…起きてるよ」
「そっち、行ってもええ?」
安田は少し間を置いてから、「おいで」と言って掛け布団をめくった。安田の布団の中に潜り込んだ錦戸は冷えた腕で安田を抱きしめる。そして、ひどく安心している自分に気がつくのだった。
「章ちゃん、あったかい」
「人を湯タンポにすなよ~」
「俺専用の湯タンポになってくれよ!」
「何でやねん!」
「ええやんかぁ~」
錦戸がじゃれて顔を安田にくっつけると、はずし忘れていた眼鏡が安田の頬に当たった。
「イタ。亮、メガネあたる」
「ごめん」
「外すで?」
「おん」
安田は錦戸のレンズの厚い眼鏡を両手ではずした。錦戸はその間、じっと安田を見つめていた。
「見える?」
「章ちゃんしか見えへん」
「何言うてますの」
「なぁ、チューしてもええ?」
錦戸の深い眼差しに安田は少し驚いたが、「アカン。ホンマに好きな人としぃ」と毅然と答えた。
「俺、章ちゃんのこと、ホンマに好きやでっ」
「ありがとぉ。でも、ちゃうやんな」
安田の言葉に錦戸は一瞬口ごもるが、隙間を寄せるように安田を抱き寄せた。
「ちゃうことない。なんでわかってくれへんねん!俺、こんなに章ちゃんのこと、好きなんにっ!」
「亮…泣いてるん?」
「泣いてへんわ」
「亮」
声を出さずに泣く錦戸の震える肩を、安田をそっと摩った。
錦戸が不安定になっているのも、自分が日和見になっているのもわかっていた。
一つ上の先輩が、夜が明けるように消えたことを知った夜だった。
最初のコメントを投稿しよう!