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「うまかったやろ?」
「バッサうまかった!」
「バッサてなんなん?」
「めっちゃの上!」
満腹でご機嫌な2人は、車中でいつもより饒舌になっていた。
「たまに行きたなんねん、あそこ。大阪焼きちゃうくて、広島焼きやん。俺、地元が広島焼きが多かったから、広島焼き好きやねんなぁ~。気に行ったんならまた連れてったるわ」
華麗にハンドルをさばき、車庫入れした横山。その口許に光るソースを村上は見つけてしまった。
「せんせぇ、口にソースついてるで」
「え?どこ?」
「ここ。あ、ちゃう。逆、逆。」
全くソースの感覚がつかめない横山の様子がおかしくて、村上はふにゃっと笑い、子供の純度100%の口許を拭おうと、無邪気に横山に近付いた。
自然と近づく2人の顔。
横山はきゅっと村上を見つめ、その荒れた頬に静かに触れた。
「うへえっ!せんせぇ!アカン!!」
そう言って村上は横山の白い顔を避け、顔を伏せてティッシュを投げ渡した。
「うへえ、てなんやねん。なんでアカンのじゃ。おたくがしたい言いだしたんやんけ」
横山は口許を拭いながら不服そうな顔をする。
「俺、一発合格してへんもん」
「真面目か」
「せんせぇ、酔うてんの?」
「飲んでて運転できるか」
「ほんなら同情?同情でされるんやったら、俺、いいです!」
村上はシートベルトを外し、ドアに手をかけた。
「酔うてへんし、同情でもない。ワシがしたいからするんじゃ」
横山は車を降りようとする村上の腕を掴み、自分の方へ引き寄せて触れるだけのキスをした。
「やらかい…」
「そうやろ?俺の唇やらかいねん。お前のは、薄くてかためやから、ふわっと受け止めてくれるな。唇の相性はええで」
横山は呆然としている村上にもう一度唇を合わせ、啄むように何回か口付ける。キスが繰り返される度に、村上は助手席の背もたれからずるずると下がっていった。
「おい、ヒナ。どうした?大丈夫か?」
「し、刺激強すぎんねんもん。俺、初めてやのに」
「…今なんて?」
「初めてやっちゅーとんじゃ!」
村上の告白を聞いた途端、何故か横山が顔を真っ赤にして、乙女のように恥じらった。
「なんであんたが赤なんねん!」
村上は笑いながら横山の頭を叩いた。
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