うそが本当に

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「すんませ~ん!」 村上の忙しない足音と、大きな声が廊下に響く。健康的に焼けた肌に映える白いシャツの袖を捲り、三番目のボタンまで開けてしまった襟元からは、汗ばんだ薄い胸元が覗いている。 「なんや、オカン来られへんのか」 三者面談だというのにひとりで現れた村上に、至極当然の質問を投げ掛けて比較的スムーズに面談は始まる。 「ハイ、急に来られへんゆうて。ホンマにすみません」 「ええわ。お前キチッとしとるから、特段オカンにゆーことないし。ほいじゃ本題やけど、志望校、ホンマにここでええんか?こないだの模試の結果やと、かなり厳しいと思うで?」 「わかってます」 「変えへんのやな」 「ハイ」 横山は村上の目に弱かった。 たれ目がちな、深い二重瞼の大きな瞳に見つめられると、推薦入試を促そうなどという大人の打算など、風前の塵と化した。 「ゆーと思ったわ。……こんなんゆーのもアレやけど、お前なら大丈夫ちゃう?アカンくても浪人するんやろ?」 「そのつもりです」 「かっこええなぁ!気持ちええわ。なんやもう面談5分で終わってもーたやんけ。すばる、呼んできてぇ」 横山はこれで良かったのだと自分を正当化させながら、村上と同室の渋谷の資料を探し始めた。 「せんせぇ」 と、村上が急に甘えた声を出す。 「ん?なにぃ?」 「一発合格したらイッコだけ、ボクのお願いきいてくれます?」 がめつい村上のことだ、焼肉を奢れだとか言ってくるんだろうと横山は想像した。 「金額によるで」 資料に目を落とす横山の繊細な横顔をじっと見つめたまま、村上は慎重に口を開いた。 「付き合ってもらえないですか?」 想定外の要望。 横山は手にしていた資料を床に盛大に落とした。
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