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「はぁっ、はぁっ、はぁっ、あーーーー!行ってもぉたぁ!俺のバス!」
激走も空しく、バスは無情にも大倉の目の前を排気ガスを撒き散らして走り去っていった。
「おぇ…」
ガックリ肩を落としてえずく大倉の後ろで、黄色い玉子麺を豪快に啜る色男が「お前のバスちゃうわ」と的確にツッコミを入れた。
錦戸は季節外れの冷やし中華をベンチで掻き込みながら
「次のん30分以上ないで。メシ食うとけよ。購買まだ開いてんで。…おいおい、待てって!そんなん重いの置いてけよ、俺見といたるから!」
と一気に捲し立て、大倉が抱える緑色の鞄を強引に引ったくった。
大倉は呆気に取られていたが、錦戸の人懐っこい笑顔を見て破顔し、「ありがとぉ」と言って売店に向かった。
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「そんな食うん?」
購買の食糧を片っ端から拐ってきたかのような量に錦戸が唖然とするが、大倉は至福と言わんばかりにニコニコと微笑むばかり。
生徒たちの多くは年末年始を実家で過ごす。
錦戸と大倉もその一人ではあったが、ほとんどの生徒が終業式終了後、即座に家路に急ぐ中、錦戸は生徒会の仕事で手間取り、大倉は「オンソウ」に籠っていたおかげで、13時になると一気に本数が減るバスを乗り過ごしたのだった。
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