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* 『すばる君、大丈夫?』 丸山が渋谷の手首に包帯を巻きながら目の前の大きな瞳を覗きこむと、渋谷は更に目を見開いて丸山を見つめ返し、静かに口を開いた。 『マルが俺に大丈夫かってきく時は、マルが大丈夫やない時やで』 真意を見抜かれた丸山は『せやな』と情けなく笑う。 『マル。これ、ヤスと亮に渡して』 丸山の掌に乗せられたのは、渋谷が大怪我をしてまでとったブレザーのボタン2つ。 『学ランちゃうから2つしかないし、心臓の近くちゅーよりはちんこの上やけどな。上付きやったら当たってるわ、カッカッカ!』 渋谷は豪快に笑ったあと、丸山の指先に絆創膏を丁寧に貼りなから視線を落としたままゆっくりと語り出す。 『俺、早めに卒業するわ。勉強嫌いやし。こないだ行ったライブの奴に誘われてん。サポートメンバーならへんかて。やってみよ思てんねん』 丸山の指先を解放し、立ち上がる渋谷。 『明日から、俺に連絡したらあかん。ヨコと作戦練ったから。マルはしらんふりしとったらええからな』 いそいそと保健室を出ていく渋谷を見ながら、丸山は絶望的な気持ちになった。もしかしたら、渋谷は自分と別れようとしているのではないか。もう会うつもりもないのではないか。 『待って、すばる君。勝手に決めんといて』 『俺が勝手なのは生まれつきや。これからも、一生治らん』 『ちゃうよ、俺が言いたいのはそういうことちゃうよ』 『ほんなら、これで決めよか。表が出たらガッコウ辞めんで』 (そんなん大概表が出るやん、コインちゃうんやから) 渋谷は、丸山の掌から取り戻したボタンを高く放った。
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