うそが本当に

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「落ちたで。せんせぇ」 村上は横山の落としたファイルを片手で拾い、つい数秒前に告白したなんて誰も想像できないリラックスした様子で手渡した。 「アホか!仮にも受験生が“落ちた”とか言うな!……お前なんちゅーこと言うねん。そんで、なんでそんなフツーやねん!」 「俺が好きなん、せんせぇ気づいてるでしょ?」 「_____。」 横山はわかっていた。わかっていたが、気付かない振りをしていたというのが正解だ。思春期の少年たちを3年間閉じ込める異常閉鎖空間では、欲望の対象がやむなく同性に向けられることも多い。 生徒達にとって、横山のような若手の教員は、教師と生徒の禁断の愛という甘美な妄想を掻き立て、憧れの対象になりやすい。 ただ、横山に向けられる多くの憧憬や、あからさまな媚びの中で、村上の真っ直ぐすぎる眼差しは一線を画していた。何かが違っていた。 そう、彼は本気なのだ。 「アカンか、そうやないかだけ言うてください」 「お前、気の迷いやって!ここ男子校やし、全寮制やし、そんなんに染まってる奴も確かにおるで?でもな、大学行ったらようけ可愛い女の子おるから___」 「アカンかそうやないかだけ言えっ!!」 回りくどい弁解をする横山の言葉を遮り、村上は生徒という立場をまるで無視した大声をあげた。 「_____あかん」 目を伏せて背を向けた横山は「すばる呼んでこい」と村上に告げ、村上は「わかりました」と静かに答えて教室を出ていった。
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