ミーのカー

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あてどなく車を走らせる横山の横顔を眺めながら、村上は話しかける。 「なぁ、せんせ」 「もう卒業したんやから先生ちゃうで」 「あ、そうか。せやな。なんて呼んだらええ?」 「うーん。そうやな。“きみたか”。言って」 「ええ~」 「なんやねん」 「なんかちゃうやろ」 「なんもちゃうことないやろ」 「“ヨコ”がええなぁ」 「全然恋人感ないやん」と納得していない横山を無視して「ヨコォ」と嬉しそうに連呼する村上。 「なんや、お前も信五て呼ばれたいか」 「ウハハ、ええよ、俺はヒナで」 「なに?」 「制服の俺とせんでもええかあ?」 横山は盛大に吹き出し、慌てて路肩に駐車した。 「ちょお待てて。ヒナちゃん、自分安売りし過ぎやで」 「もったいないで」 「そういう問題ちゃうやろ」 「ストレッチしてきたし、俺ができる準備いうのんはしてきたで!」 「ストレッチて、お前どういう体…」 「たい?」 村上の汚れていないところをもっと汚したい衝動にかられた横山だったが、わずかな理性で持ちこたえた。 「なんもないわ…ちゅうか、お前な、これから浪人やろ?浮かれてる場合とちゃうで」 「わかっとるがな」 「世の中な、金次第やし、努力次第やけど、運次第でもあるし、結果次第や。……うん、だいたいこんなもんやな。みんな、何かしらに翻弄されながら生きてくもんや…。これからお前はお前の本能で選んでけ。つまりな、全部お前次第っちゅーこっちゃ」 村上は横山の目を真っ直ぐ見つめたまま口を開いた。 「なら、ヨコ次第でもあるな」 「なんでや」 「俺はあんたを選ぶから」 横山は村上の飲み込みの速さと真摯さに驚いて目を見開いた。 「おお、そうやな。俺次第やし、お前次第や。俺は人に厳しく自分に甘くやってくで」 「ふは。最低やな、あんた」 「……訳もないし、答えもないけど、俺はお前がええねん」 「答えしかないやん」 そう言って村上は横山の厚みのある唇に自分の唇を押し付けた。 「でけた」 と満足気に笑った瞬間に覗いた八重歯に、スイッチの入った横山が覆い被さるが、村上の鞄の中で携帯電話が震えたため中断された。 「誰からや、もぉ」 「すばる」 「なんて?」 「内緒」 「なんでや」 「俺次第なんやろ?」 「そう言われると、腹立つわ~」 「ウハハハハハ」 横山の車の中は、村上の笑い声でつつまれていた。
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