うそが本当に

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これで良かったのか。 横山が自責の念にかられていた時、またバタバタと村上が戻ってきた。 「せんせぇっ!」 「なんや、早よ呼んでこいや」 「タエコまだ来とらんて」 「さよか」 「…せんせ」 「なんや、お前もぉ、自習室に行けや」 目を潤ませて横山を窺う村上に、横山はわざとぶっきらぼうに返事をする。 「さっきのぉ、お願いやけどぉ…」 「あかん言うたやろ」 「キ」 「?」 「キッスは?」 「キッス言うな」 「ほんならキスしてほしい」 (ヒナ、そんな目ぇして、俺の何がええんや) 「かまへんでしょ?それなら」 こいつは本気だ。 横山はひとまわり以上年下の教え子に圧倒されていた。 「…第一志望、一発合格したらやぞ」 「はいっ!」 村上は瞳をキラキラさせて元気よく返事をし、爆発しそうな喜びを押さえきれずに廊下を走って行った。
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