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村上が走り去ってから十数分が経とうとしていた頃、渋谷もひとりで教室に現れた。
「すばるぅ、遅い」
「終わるんが早いんや」
教師を待たせていたとは思えない横柄な態度で椅子を引き、渋谷は横山の前にどっかと座った。
「なにしてたん」
「待ってた」
「来たらよろしやん、俺かて待ってたんに」
そう言う目の前の担任を、渋谷は大きな目を開いて見据えた。
「アカンやろ」
「なんで?」
「イヤやん、ドア開けたらヨコとヒナが愛情のある、のぉーこぉーな愛撫から始まる営みをさ、もぉ、もぉっ!こんな!こんな!なってて。で、ヒナが悶えに悶えてたら。俺、はっ!てなるやん。はっ!アカンやつや、て」
小さな身体とは対照的に、大きな身振り手振りでおどける渋谷。
あのまま村上を受け入れていたらあながち嘘にはならない話に、横山はありきたりな返答しかできない。
「何を言うとんねん、アホか。…タエコは?」
「オカン呼び捨てすな。…まだ!」
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