うそが本当に

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* 「ゆうちん、どやった、三者面談」 横山が職員室に戻ると、隣の席の丸山が柔和な笑顔で横山を迎えた。 「疲れたわ…」 「担任持つと大変やなぁ~」 疲弊した原因は、生徒の進路や保護者との付き合いではなく、一生徒との今後の接し方だと思うと我ながらおめでたいと思う横山だった。 「それより授業が進まんくてヤバい。夏休み前やのにまだ江戸時代や。私立は近現代史から割合出題多いのに、毎年駆け足になってまうねん」 「ゆうちん、話脱線しすぎちゃう?」 丸山は横山の机に積まれた使い込まれた教科書を取り、パラパラとページをめくる。 「そうやねん。楽しなってきてつい色んな蓋開けてまうねん」 「カレー入ってる?」 「たまにな(笑)」 「みんな、塾の夏期講習でノウハウ教えてもらうんやろ?」 「…悲しいけど、そうやねんな~」 そうなのだ。高校は最早大検製造工場と化し、入試のハウツーは塾や通信教育が担っている。その状況に対して高校教師はぐうの音も出ない。 「ゆうちん、ゆうちん」 「ん?」 「墾田永年?」 「私財法?」 「せぇーかーい♪」 丸山は手にした教科書の中から気に入った響きの単語を選び、横山に出題する。 「マルちゃん、返して。もうすぐ部活始まるやろ?」 「ゆうちん、ゆうちん」 「なんやねん」 「禁中並に?」 「公家諸法」 「すごーい!」 「歴史教師なめんな」 丸山は横山の二つ下だが、横山には後輩という感覚はなく気のおけない同僚として、ありがたく感じている。 優しい性格が故に気を使い過ぎ、たまに暴走するのが玉に傷だが。 「禁中並公家諸法!キンチュウナラビニ~ィ、クゲ、ショ、ハッッ!」 丸山は江戸幕府の制定法を繰り返しながら、奇妙な見得を切って職員室を動き回る。 「何をちょっと気に入っとんねん(笑)早よ部活行け。顧問が部員待たすな」 丸山は「せやんなぁ、ありがと、ゆうちん」と微笑み、炎天下の校庭に向かっていった。
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