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シュプレヒコールを唱えて、意見主張を繰り返しては居場所を取り戻して、今度は誰かを見下す。
「めんどくせ・・・・」
勝手な考えを巡らせているうちに嫌気がさし、そう言葉が口を突いて出た。
そこで丁度電車がホームに入ってきて、人に押されるがまま、否応なく四角い箱におとなしく収まった。
「イテッ・・・・・・」
足を踏まれたが、身動きできずに痛さを堪えた。周りはサラリーマンだらけで、男臭い。足のやり場もないが、持つ吊り革も見当たらない。
「うぐ・・・・くくっ」
今はまだいい。これからの季節が一番つらい。六月の雨と湿気と匂いで、電車内は地獄になる。窓にはくっきりと手形が、酷いと誰かの顔形まで分かる程つく。
一度降下してしまうと、気分というものは低空飛行をし続け、大学に着いた時にはすっかり滅入っていた。
「おはよう。カズ」
「はよ・・・・」
三流大学の人間関係学部心理臨床科の四年制で、ほとんどの授業が選択だったが、一応クラス分けがされている。その中で同じAクラスの中里舞が声をかけてきた。
「今日、学長の特別講義だよ。話長そうだね。カズもとったよね?」
教室を確認するために来た提示板の前で彼女に話しかけられた。
「いや・・・・ゼミとかぶってるから、ゼミ優先で・・・・・・」
別に特に仲がいいというわけではなく、彼女は常に誰かと群れていたいようで、一度話したことのある人には大抵馴れ馴れしく話しかけてくる。
面倒臭そうな表情を浮かべながらも一応話す。それが最低限の礼儀だと、自分の中ではそう認識していたが。中には平気で無視する奴もいて、さすがにその対応はどうかと思う。・・・・まあ、本音を顔に出してしまう自分もどうかと。
そんな様子を見ようと中里は僕の前に出て、膝丈のスカートヒラヒラさせた。
「カズ・・・・なんかあった?」
香水の甘い香りと化粧臭さを撒き散らしながら、彼女は顔を覗かせる。
「別に・・・・・・」
鼻を刺激させられ、出そうなくしゃみを必死に堪えた。
「ああ、そうだ。この前借りてたノートありがとう」
中里はヘルメスの黒バッグから何枚かのレポート用紙を取り出し、こちらに差し出した。その手の親指には真っ赤なネイルとキラキラのラメ。
ーーこいつは何しに来てるんだ?
そう思う程に彼女の見せつける女子力に完敗だ。
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