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「あ、みゆみゆ!この前はありがとう!」
紙を受け取ってすぐ、彼女は廊下奥を歩くグループの方へ叫びながら走って行った。僕は解放されてホッと溜め息を吐き、授業が始まる部屋へと向かった。
「あ、カズ!こっち!」
入口を跨いだ途端、またしても声をかけられた。声のする先に目を向けると同じゼミ仲間の集団だ。その呼びかけに否応なく、足が向けられる。
「今日のゼミの課題終わった?」
席に座る前に柳田志穂がそう話しかけてきた。
「一応・・・・」
座ったパイプ椅子の位置を調整し、肩にかけていたジーンズ生地の黒トートバッグを長机に置いた。ゼミ仲間の三人は一列になるよう座っている。
「やば、やば!ゼミより、こっちの方がヤバいって!先週のレポートすっかり忘れてた!」
一番奥の渡辺沙織が叫びながら、レポート用紙に何かを必死に書き込んでいる。
「沙織この授業の単位落としそうなんだっけ?」
「そうなんだよね・・・・一限つらすぎ!」
「しょうがないよ。沙織はここまで三時間もかかるんだし」
「三時間じゃ、小旅行じゃん!」
伊藤恭子も話に加わり、騒がしくなった。僕は荷物の中を整理しつつ、授業に必要なプリントとファイルに入った提出用レポートと筆記具の入ったペンケースを出して机に重ねた。
「あ、カズ。今日ゼミの後にうちらで飲み会やるんだけど、来るよね?・・・・あ、あと男子たちも三人くらい来るかもって」
「あ・・・・」
断る口実を探していたが、話は勝手に進んだ。
「男子が来るんじゃ、飲みほーの方がいいかな?」
「カラオケとかでもいいんじゃない?」
「え、でも高いんじゃない?」
「駅前に学割有りのカラオケあったよ?」
「って、カズって歌えたっけ?」
テンポの速い話についていくのがやっと。
「いや・・・・」
「あ、そっか。カズ歌ダメだった。じゃあ、バス停の前の安民にする?」
「安民クーポンあったよね?」
「あるある」
正直に思う、女性の方がおしゃべりだと。だが最近はそうでもないらしい。
「じゃあ安民で決まり!いいよね、カズ」
「え?・・・・ああ」
急に意見を求められ戸惑うことがしばしば。話を聞いていないと思われているようでわざと話しかけてくる。まあ、大抵は聞いていないけれど。
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