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僕にはそれが区別ではなく、差別としか思えなかった。男の子は泣いちゃいけない、髪は短いのが当たり前。女の子はスカートをはかなきゃいけない、ランドセルは赤。
大人の都合でできたそれらの常識が僕には理解できなかった。
だから男の子の格好をしたその子に惹かれた。その子とならキャッチボールすることもバッタを捕まえることも許された。いつのまにか "男の子の遊び" と決められていたそれらを一緒に行える仲間が欲しかった。
けれどもそれはいつしか "いじめ" の対象となっていった。男にも女にも属せない、居場所のない日々は三年も続いた。男はこうで女はこうだと制限されればされる程、自分の性に対する憎悪と異性への憧れが増した。
一時限目は九時から始まり、一授業90分。二時限目の認知行動心理が終わると正午を過ぎ、1時間の昼休みに入る。本館に食堂があるが味はそれなりで、二年になってからは専らコンビニおにぎりで済ましている。
認知行動心理では知り合いはなく、一人教室を出てコンビニまで行こうと本館を出た。
「あ、カズ!」
呼ばれた瞬間に足が止まった。固まったというのが正しいかもしれない。
「カズはお昼どうするの?またコンビニ?」
先程の三人がこちらに近づいた。
「ああ・・・・うん」
「ねえねえ、たまには国道沿いのモック行こうよ~」
「あ、いーね!モック!あたし行きたい!」
「新しいの出たよね~」
そう話しながら彼女たちは道路の方へと歩いて行く。
ーーおいおい、決定なのかよ。
僕はカーキ色のカーゴパンツのポケットに手を入れ、そこにある煙草の箱を握った。
「食べてく?持って帰る?」
志穂が後ろを歩いていた僕を見た。
「カズ?・・・・ねえ、和美!」
「えっ?」
惚けた声が自分の口から漏れた。煙草が吸いたい一心で話を聞いていなかった。
「もう、カズったら・・・・・・」
「ああ・・・・ごめん、志穂」
表面だけの謝罪なら得意だ。この世界のルールとやらに反しては頭を下げて生きてきたのだから。
自分の中の正解に大人はいつも罰をつける。そんな大人の中で育った周りの奴らも僕を軽蔑する。倫理道徳なんてものはいい加減だ。個性を排除するこの国のルールでは僕の存在は悪にしかならない。だから偽るしかなかった。
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