プロローグ

5/10
前へ
/16ページ
次へ
 本物にそっくりの、トリストが作り出した幻影。だが、この世界に自分の姿で入れるのは所謂【メンテナンス中】と呼ばれる時間だけだ。 『よう、マスター』  メンテナンス中だというのに、私のプライベートアカウントのバトロイドが話しかけてくる。本当、作った当時から自由なやつだった。馬型――ケンターディスの鬼斬(キザン)だ。 「よ。最近忙しくてログインできなくてごめんね」  これは嘘だ。前は忙しくてもちゃんとログインしていたのに。 『まあ、社長だからな! 忙しいよな!』  そうだよ、忙しいんだよ。忙しいからあまり来れないんだよ、と言い訳する。 「やあ、団長」  聞き覚えのある声に硬直する。この声は相模さんだ。私たちが作り出した幻影の相模さんだ。 「団長さん、大丈夫ですか? 最近ログインできてないみたいで」  この声は優依さんだ。振り向かずにうん、と頷くと、「無理すんなよ」と頭を乱暴に撫でられる。この手は櫻庭さんだ。顔が見れない。見たら何かが溢れ出してしまいそうで。
/16ページ

最初のコメントを投稿しよう!

3人が本棚に入れています
本棚に追加