1人が本棚に入れています
本棚に追加
「関東スポーツ新聞の、宇崎と申します!」
関東スポーツ新聞。
通称関スポと呼ばれる新聞は、
その見出しや記事を誰も信じていないことで有名だ。
嘘ばかり書く新聞がどうして売れるのか、
高校生の倫子には理解しがたいところだが、
この不景気でも新米の記者を雇っているぐらいだから、
それなりに商売が成り立っているらしい。
「新聞は間に合ってますから!」
「いえ、新聞の勧誘じゃないんです!
僕は、関東スポーツ新聞の、
レッキとした記者なんです!」
嘘しか書かない新聞に、
「レッキとした記者」
がいるわけがない。
とにかく倫子はそんな新聞には関わりたくないので、
少しきつい口調でドア越しに言った。
「帰ってください!」
「仕事で来たわけじゃないんです!
あなたの力を借りたくて!」
「私は、高校生です。
大人のあなたにお貸しする力なんて、ありません!」
「そんなことはない!
君はこの前テレビで、
驚異的な能力を見せてくれたじゃないか!
それともあれは、テレビ局のヤラセだったのか?」
これが普通の相手だったら、
倫子も聞き流せたかもしれない。
しかし、相手が関スポの記者だと思うと倫子は腹が立った。
チェーンをしたまま鍵を開け、
ドアを半開きにするとその男がすかさず顔を覗かせたので、
わざと値踏みするように上から下まで眺めて、言ってやった。
「もう一週間もお風呂に入っていないんですね。
下着だってその間、一度も取り替えていないでしょう。
あら、今日の夕飯は天丼ですか。
どこのお店で食べたか知らないけど、
ずいぶん古い油で揚げてますよ。
海老だって半分腐ってる。
よくおなか壊しませんね。
お昼は味噌ラーメンですか。
少しは野菜、摂らないと」
いきなりだったので宇崎は面食らい、
よく動く、高校生にしてはやたら色っぽい倫子の口を、
ただポカンと眺めていた。
「会社で、あなたの右隣に坐っている人、
よく煙草吸うでしょう。
ハイライトって言ったかしら、ずいぶん強い煙草ね。
吸いすぎは身体に毒ですよって、
私が言っていたと伝えておいてくださいね。それから・・」
「わかった!疑ったりして、申し訳ない!」
まさに、鼻を明かすとはこのことだ。
自分より明らかに年上の、しかも社会人が、
深々と頭を下げるのを見て、倫子は少し機嫌がよくなった。
最初のコメントを投稿しよう!