【第2話】若い男の匂い(無料)

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しかし次の瞬間、 男の下げた頭に染み付いた、辛い悲しみの匂いを、 倫子は感じとっていた。 それは死者を弔う線香の匂いだった。 しかも、三日三晩、煙絶やさぬ部屋で、 故人との思い出に明け暮れた、深い悲しみの匂いだった。 「どなたか、お亡くなりになったんですか?」 大人をからかう無邪気な顔から一転して真顔になり、 精一杯の思いやりを込めた目で尋ねられた宇崎は、 不意をつかれて動揺し、 恥ずかしいとは思いながらも、 目から溢れる涙を堪えることができなかった。 「・・・先日、妻を亡くした。 まだ、二十二才で、去年結婚したばかりだった・・・」 「ご病気で?」 「事故だった。 車に轢き逃されて、まだ犯人が捕まっていない。 その日は土砂降りで、 証拠はすべて流れてしまって、 目撃者もいなかったから、 警察も犯人を挙げるのは、難しいと言っている。 お願いだ! 君の力を貸してくれ! 僕と一緒に、妻を殺した奴を捜してほしいんだ!」 涙の匂いは幾つも知っていたが、 この時倫子は、 この世で最も愛する者を失った時に流す、 苦い涙の匂いを知った・・・。
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