"大人の対応を"

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「こっ、こここれで……いっ、いいいんですか!?」 忙しなく下駄箱の蓋を開け閉めする女性、響。 今度は名前を間違えていないだろうか……下駄箱の名札を確認し、頭の中で完成したラブレターの内容を思い返すと忽ち顔が真っ赤になった。 もう逃げられない……これを読まれてしまうと思うとすぐにラブレターを取り出したいが、横にいる2人の人物の目線が痛い。 響は深呼吸をして下駄箱から離れ、共にいる秋平と扇に不安そうな目線を投げ掛けた。 「よしっ、後は彼が来るのを待つだけですね」 「あの4時間が無駄にならない事を祈るわ」 4時間……その時間を秋平と扇は振り返る。 何を隠そう昨日、響のラブレター制作に掛かった時間だ。 書いては紙を丸め、考えては直しの繰り返し。 明らかにラブレターの内容に適さない言葉ばかりだった為、2人はわざとやっているんじゃないかと疑う程だった。 しかし、顔は真剣そのもので想いは本物。 純粋さの裏返しならばと2人は苦笑いしながら付き合ったのだ。 現時刻は15時。 3人はHRが終了し、急いで下駄箱で集合した次第。 珍しく急ぎクラスを出て行った秋平と扇にXクラスは不思議に思ったみたいだが、誰も声を掛けず、感情を探知しても秋平は彼等を近くに捕捉しなかった。 こういう時、詮索をしないでいてくれる彼等を秋平と扇は嬉しく思う。 「……本当にありがとうございます。 私なんかの為──」 「お礼は言わない約束よ。 私達だって半ば無理矢理だったし」 「なにより、俺達は人の恋愛に娯楽を感じてますから。 こっちが楽しませて戴く換わりの協力です。 50:50にお礼は違反ですよ」 自分勝手な優しさなんて言っても種類がある。 この2人の自分勝手さは、見返りを求める情けは人の為ならずだ。 見返りを求めない、押し付けがましい優しさとは訳が違う……この人達と居るのは本当に心地好いと響は思う。 「よしっ、じゃあ後は──」 「来ましたね。 予想以上に早い……"大所帯"です」 「「えっ?」」 「隠れましょう。 下駄箱の前に居ると厄介事になります」 やっぱり今度お礼をしなくちゃ……気付けばそんな事を考えている自分のコミュニケーション障害が和らいでいるのが響は実感出来ていた。 嬉しい……だが感情を探知した秋平は彼女に緊張の瞬間が近い事を伝えその考えを遮り、3人は急いでS1クラスの下駄箱が見える位置に隠れた。
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