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もう炸裂・・・そんな瞬間に不特定多数の方向から糸着きの針が数個程飛来する。
「はにゃッッ!?」
その内数個は秋平へ届く事叶わなかったが、針は秋平の首筋を的確に捉えプスリと刺さり、秋平はそのまま覚束無い足取りでその場をふらつく。
倒れる間際、秋平が見たその姿は──
「全く・・・あんな小さな少女達を不安にさせて、何をやっているんですか・・・君は・・・」
「う・・・る・・・ッ!!」
──真っ黒なフード付きコートに身を包んだ、見知った顔。そして、彼を"空から降下させた真っ黒な髪の束だった。
◆ ◆ ◆
氷柱の作り出した凍土を風が撫でる音が、その場に静かに流れた。その音が聞こえる程に、静寂は寒気となり空間を支配する。
謎のフードの人物の登場はそれ程に圧巻だった。瀕死興奮混乱状態とはいえ、あの秋平を全く悟らせずに昏睡させた技量。
明らかに只者ではなかった。
「楸原先生・・・」
「はい・・・あの時の・・・ッ!!」
晶羅に目で問われ、佐奈は頷いた。
その姿、体格に声に雰囲気。間違う事など出来はしない。一瞬だが、相対した佐奈にはあの時の自称医者だとすぐに理解出来た。
「彼が。それに・・・」
──先程の髪は。
晶羅は似たような魔法を見た事があった。フードの男の魔法だとも判断出来るが、あれは間違いなく"髪"だった。
しかし彼女の髪は"赤"だ。それに、自分の生徒達の健闘により彼女は既に死んでいる。
──本当に?
晶羅はここ数十分で生まれたある可能性を、またある可能性に繋げて行く。
人の人生は1本のワイヤーが、曲がり、うねり、捩れて出来ている。その人生が不特定多数の他の人生と関わる事で、人の繋がりは出来ている。
その関わりこそが、曲がりでありうねりであり捩れだ。トタンのようにわざと歪ませる事で強度を高めるように、人生はそうしてより硬く作られて行く。
その関わりが時に絡み合う事が多々ある・・・それはより強固で、深い関わり。愛、憎しみ・・・"秘密"。
その絡み合いが、数を増やす程・・・秘密を共有しあう事で、その関係もより強固となる。
まるで数本のワイヤーを絡ませて作るフェンスのように、注連縄のように。
もし彼がそうならば・・・そういう事もあるのかもしれない。
それならば理解出来る・・・何故あの2人が途中で姿を消したのかも。
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