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[満月の夜に] 過去話 生まれて間もない頃、俺は親に売られた。 理由は簡単。この瞳のせいだ。 腹を痛めて産んだ子が、普通と違う。 親の心を痛め付けるのに十分だ。 長い間施設で育ち、ある程度育ったらまた売り付けられる。 揺れる馬車の中で自分と同じ位の子供が光のない瞳でいたのを覚えている。 売れたら奴隷。売れ残ったら、廃棄。 野菜と一緒。 ………変わった見た目の俺を買ってくれる物好きはいなかった…。 「チッ、やっぱり残ったか…」 「だから赤ん坊の時に殺っとけば良かったんですよ」 馬車を運転しながら話す大人達。 俺には選択する権利がない。 ただ死へと揺れていた。 その時、彼と出会ったんだ。 急に止まった馬車。 怯える人間と馬の声が聞こえた。 『お前達が俺の仲間を殺した人間か…!?!!』 「お、狼だ…!?なんでこんな所に…!!!?!」 「ど、どうしましょう!?今武器何も持ってないですよッ」 「うるせぇ!!今考えてんだろうが…!!!…………そうだッ」 手が伸びてきて俺の腕を掴んだ。 「こいつを囮に使う…!!」 そう言って狼の方へ投げ付けられた。 「っ!?」 地面に叩き付けられ、身体中がビキビキと嫌な音をたてた。 「逃げるぞッ」 「はいッ」 大人達は馬の尻に強烈な鞭を打ち、逃げ出す。 『逃がすかッ』 大きな狼が仲間の狼に指示を出す。 そして数分後。 大人達は狼に食い殺された。 1人残された俺はその様子をずっと見ていた。 美しく舞う赤に可憐な動きの狼。 なんて素晴らしい光景だろう…。 俺もあの狼達に食われてしまうのだろうか。 それでも、あの狼達ならいい。そう思えた。 狼がゆっくりこちらに向かって歩いてくる。 『何故逃げない?』 凜とした声が聞こえる。 「…逃げても死からは逃げられないから、」 『俺の言葉がわかるのか、』 「うん。綺麗な声だ」 ここまで綺麗な声は初めてだった。 「食べてくれるんでしょ?」 初めて笑顔になれた気がした。 →
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