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[モブ兵の話]
兵士になった理由なんて曖昧で、大した意味なんてなかった。
ただ皆がそれを目指していたから…。
それだけだったと思う。
故に、どうでもよかった。
王とか、国民とか、国とか…。
逆に聴きたい。
何故そこまでして護りたいと思うのか。
愛するヒトがいるから…?
だって仕方ないじゃないか、
死んだなら、そこまでの命だったってこと。悲しむ必要なんてない。
ひねくれてる、ってよく言われるけど、淡白なだけ。友と言える人間はいない。必要ないし。
…………でも、最近一人の変わったヒトに声をかけられる。
「やぁ、新米兵くん?」
彼は神出鬼没だった。
気が付いたら目の前にいて、よくわからない笑みをこぼしていた。
「ここには慣れたかい?」
そして彼はここの王の従者だった。
そんな役職の人間が一般兵…それも新米に何の用があるというのか、
「はい、だいぶ」
笑顔を作り答える。
「そう、それはよかった」
彼も笑顔で返してきた。
が、それは皆が言う"笑顔"ではなく、思わず固まる。
細められた瞳には光がなく、感情が詠めない。
「じゃあ折角だし、手合わせしてあげるヨ」
「ぇ、あ、はい…ありがとう、ございます……」
……結果なんて見えてる。
彼の圧勝だ。
「まだまだだネ」
当たり前だ。
経験値が違いすぎる。
「これじゃキミは直ぐに食べられちゃうよ」
「………食べられる…?」
「そう。この世界は弱肉強食だから、ね?」
両手を広げ、一回転して微笑む。
"弱肉強食"
つまり俺は食われる側だと…。
「俺と一緒だネ」
「…え?」
「え?」
さりげなく彼は自分は弱者だと溢した。
「貴方は、喰らう側じゃないんですか?」
「だって俺ちゃん弱いし」
「強いじゃないですか…!!
……………少なくとも自分よりは、」
キョトンとする彼。
そして、
「ふ、ふふふ…はははっ」
お腹を抱えて笑いだした。
「な、なんで笑うんですか!?俺、変なこと言いましたかッ!?!!」
「いや、違うんだ…。キミ変わってるネ」
「っ!!
よく、言われます…」
何故かだんだん恥ずかしくなってきた…。
「にゃぁ」
「わぉ、それは大変だ…またね、新米さん?」
突然猫が来たかと思うと彼はスタスタと何処かへ行ってしまった…。
……この日から、真面目に訓練を受けるようになった。
そして理由も見付けた。
「満月さん
手合わせ、お願いします!」
end.
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