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[ジンといっしょ] 過去話 ジンに怒られた。 俺は、ただ、皆の力になろうとしただけなのに…。 膝を抱き、丸くなる。 その瞳には涙が滲み、服を濡らしていく。 遡ること、一時間ほど前…。 満月はジンの、皆の力になろうと一生懸命野うさぎを捕まえようと追いかけていた。 群の仲間になって約一年。 群の力になろうと狩りに出ることを志願するが、ジンに断られ続けた。 満月としては仲間にしてもらって、ただ飯を食うのは気持ちがいいモノではない。 ならば、自分も群に貢献できる素材だと見せつければいい。 そう考えて満月は野をかけた。 しかしウサギを捕まえると言えど簡単なものではない。 一年前まで施設で育ち、ただでさえ体力が乏しい歳で、すぐに疲れてしまう。 狼の狩りの方法は、追いかけること。 追いかけて追いかけて相手が疲れたところに牙を突き立てる。三日間追いかけ回したこともあった。 そんな過酷な狩り。 満月はついに足を滑らせ、転倒した。 ガッ 嫌な音が響く。 たまたまあった大きめの石に満月は頭を強打したのだ。満月は意識を手離した。 満月が目を覚ました時。 見慣れた岩の天井がそこにあった。 そして横を見ればジンが寄り添いながら寝ていた。 外はもう月しか出ておらず、しんっとしている。 ズキズキと痛む頭を押さえて、ジンにすり寄った。上質な毛皮に包まれるとなんとも言えない安心感がある。 『……起きたか?』 降ってきた言葉に頷く。 『今は眠れ』 頬を舐められ、重くなった瞼を静に閉じた。 次の日。 朝食後ジンに呼ばれ、怒られた。 勝手な行動をとるな、と…。 気が付けば満月は走っていて、気の陰に小さくなっていた。 自分は悪くない。 まさかよかれと思った事で大目玉をくらうとは…。 満月はただ泣いた。 『おい』 涙も渇れた頃。 満月の前にジンが立っていた。 『帰るぞ』 優しく言葉を発する。 『今日はお前の好きな小鹿を捕ってきた。晩飯に食おう』 その優しさに再度満月は涙を流す。 そしてジンに飛び付いた。 「ごめん、なさい…!!」 『あぁ…さぁ、帰ろう』 「うんっ」 ジンと並んで歩き、我が巣へ足を向けたのだった。 end.
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