1849人が本棚に入れています
本棚に追加
身体をすり抜けていくような冷たい夜風。
ふと落とした視線を街路樹に向けると、凍えた常緑樹の葉っぱが街のネオンに照らされ、サワサワと大人しげに揺れている。
激しい感情の起伏が続いたせいか、すっかり冷めてしまったアルコールのせいか、頭がくらくらする。
「何だ、それ。バカバカしい」
呆れた響きを持つその声にハッとして、慌てて先生に視線を戻す。
「…バカバカしいってっ…ひ」――「どい」と、続けようとした私の声をかき消すように、
「そんなくだらん金と、自分の存在価値を一緒にするな!」
先生が怪訝そうに言った。
「くだらん金って…」
彼の不機嫌を露わにした表情を見つめ、押されるように思わずたじろぐ。
「さっき、欲しいモノは自由だって言ったな。…自らの呪縛から解放される、自由が欲しいって」
「……」
「自分への戒め…そう言う意味だったのか」
尻込みしながら頷く私を見つめ、先生は唇を歪めて笑みを浮かべる。
「…その自由を手に入れるために、俺を利用しろ」
「…はい?」
先生を利用する?
…言ってる意味が、分からないんですけど。
「今夜一晩のお前の価値はいくらだ?」
「へっ!?…あの…えっと…それ、どういうことでしょうか?」
間の抜けた声を漏らす。
目の前に立つ彼を見上げ、大きな瞬きを繰り返す。
最初のコメントを投稿しよう!