第1話

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『……捕れないと思ってたら捕れたな。 ほんとに持って帰る?』 ビニール袋を右手に持ち、 飽きずに顔の前で私が見つめていると、 結人が訊いた。 りんご飴の時は気づかなかったけど、 間近で見る白い祭り装束は案外汚れている。 『……うん。かわいいし』 うちはペットは飼っていない。 まだ私が小学生の頃、飼い猫のトラ太が死んで、そこからずっと。 『……そう?持って帰って怒られないか?』 『……うん。たぶん……』 ようやく袋から目線を外し、 私は結人をじっと見た。 恋人として目の前にいる佐藤 結人。 りんご飴の時からまるっと1年後。 『……アコ、こいつに名前つける?』 照れたように俯いて、結人は私にそう訊いた。 『だね。オスメスどっちかなー』 『……オスじゃね? いや、オスに決まってる。 俺が祭り準備とかで相手出来なくて寂しい時は、 こいつが俺と思って話しかけてみ』 冗談とも本気ともつかない言葉が 結人の口からこぼれ、 『……それ暗すぎない?』 って私が笑った。 名前を、ってもう一度話が戻って、 『……ホクトは?』 って結人が訊いた。
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