第1話

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アコッ………………! ふとあの声に、呼ばれた気がした。 祭りの太鼓のようにお腹の底にストンと響く、 心地よく、心踊る、声。 けど何度振り返ってみても、 そこにあるのは やたら生暖かい夏の夕暮れの風と、 線引きされただけのスーパーの駐車場。 「……愛(あい)、 何ノロノロしてんの? これちょっとそこまで持って」 母親が言い、いくつもある買い物袋の中の2つを受けとる。 軽自動車の後ろにそれを詰め込むのを 手伝うと、 また、手持ちぶさたになった。 「……まぁたスマホ? テレビで言ってたわよ。 それが若い子の学力低下につながってるって。 あんたもうすぐ受験なんだし、 少しはそれいじる時間減らさないと、 いくら予備校行ってたって滑り止めの短大にも入れてもらえないわよ」 その口調と同様、荒くエンジンをかけ、 母親はアクセルをグイと踏んだ。 「……それから……」 ……あ……また始まるな……と、身構える。 だからこのスーパーに来るのは嫌だったんだ。 でもこんな田舎じゃ、 大きなスーパーはここしかなくて、 それが嫌ならコンビニでどうにかしろって、話になっちゃうしね。 「……結斗(ゆいと)君のとこ…… この夏休み、少しは行きなさいよね。 ここから近いんだし、うちからだって自転車で30分もかかんないでしょう? なんならこのまま送って行こうか?」 ここに来る度思い出したように 繰り返されるこれ。 うんざりしながら後ろを見やった。 「……冷凍食品……あとアイスも…… 買ったし無理だよ。溶けちゃうよ」 「……んなもんはドライアイスあるんだからなんとでもなんでしょう。 ……もういいわ。 いっつもいっつもなんだかんだって理由つけて。 お母さん、あんたがそんな薄情な子だと思わなかった」 母親の頬が不満げにひきつれていく。 私もだよ……お母さん。 私も自分がそんな薄情なやつだって、 ずっとずっと……思ってなかったんだ。
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