第3話

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『……何だ今日はあいつは誰とも彼氏を見に行かんのか? 変わった奴だなぁ。 せっかくのてっぺんだぞ。 なのに母さんと俺だけが見に行くって変じゃないか? ま、いいか。カメラカメラ、どこやった?』 祭りの初日。 騒々しく、せわしなく、 階下から上がってくる父親の声。 母親が賑やかしく適当に応対し、 『はいはい、早く出て下さいな。お財布持った? 眼鏡は? あ、そーだ、愛っ、あんたのご飯、レンジでチンだからねー』 階下からそう聞こえて、 やがて静かになった。 誰もいなくなると、息を吐く。 止めていたつもりもないけど、息を。 今更町田さん達に声をかけるなんて 失礼だと思った。 だから初日は行かなかった。 昨日夏海とのメールが終わってすぐ、 結斗にメールした。 明日は体がだるくて行けない事を告げると、 ひとしきりの心配の文字があり、 明後日なら少し時間が空くと結斗が続けた。 でも無理すんなよ。 そうも書いてあった。 夏海達はそんななら毎日お祭りに顔を出すだろうから、 本当だったら全部行きたくないの、とは書けなかった。 あれ以来メールをやり取りしていた事も 言っていないから当然で、 てっぺんに乗る結斗よりもまだ、 そっちの方が大きい事を隠したくて、 私は返信した。 大丈夫。 明日、お祭り一緒にまわろうね。 結斗の姿も楽しみにしてるね。 って。 今思えばそれだけじゃなくて、 どうしてもこの日会っておかなきゃいけない気がした事も確かだった。 変だけど……ふと、そう思ったのだ。
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