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「ほら、栄太郎も謝りなさい?」
「悪かったね。
少し考え事をしながら歩いてたんだ」
私とぶつかった方の顔を見れば、その顔も知ったものだった。
……吉田稔麿も、京に入っていましたか。
「……気にしてないので。
すみません、急いでいるので私はこれで」
私は足早にその場から離れた。
奥沢さんと離れてしまったのは本当だから早く追いつかなくては……。
その時、後ろでその二人が私の方を見て話している姿など、知る由もない。
「っ、奥沢さん!」
「え、あ……すっすみません!
歩くの、早かったですか?」
「いえ……、わたしが、遅い……だけですから……」
ほんの数十メートル。
昔なら普通に走れていたであろう距離を早歩きで歩いただけで息が上がってしまう。
本当に、不便な身体になってしまったものですね。
「……ふぅ、すみません。行きましょうか」
私の言葉に不安げに頷きながらも奥沢さんは歩みを進めた。
しばらく続いた無言を私が壊す。
「奥沢さん……奥沢さんは、生きていてよかったと思えますか?」
「生きていて……ですか?」
驚いたようにその言葉を話す奥沢さんに、私は頷きを返す。
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