一雫の憧憬

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 ゆらゆらと揺れる水が、ガラス張りの天井から降り注ぐ太陽の光を反射している。反射された光は、まるで色彩鮮やかなビーズが散りばめられたように虹色に瞬き、そして、強すぎる光は容赦なく私に突き刺さる。  腕を伸ばして水を掻く。一掻き一掻きぐいと進む感覚を感じながら泳げ、という先輩の言葉を反芻しながら、私は前に進む。  遠くでピーっと笛の音が鳴った。休憩の合図だ。プールの端まで泳ぎきってからプールサイドに上がると、ほとんどの部員たちは既にベンチで談笑しているところだった。マネージャーからタオルを受け取ってベンチへ向かい、一番端に座る。隣には誰もいない。これが私の席だ。それは中学二年の夏が終わったあのときから、三年に進級し、新入生がこの競泳部に入部してきた現在に至るまで変わらない。 「あの子には関わらないほうがいいよ。だってね……」  だってね、あの子は……。
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