一雫の憧憬

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 中学校に上がるときにこの私立中学を選んだのは、この学校の競泳部がこの地域で一番強かったからだ。小さい頃から泳ぐことが好きだった私は小学生向けのスイミングスクールに通っていて、中学に入っても泳ぎたいと思った。  中学一年の頃入部したばかりの私は、見事に井の中の蛙状態で、部活に参加するたびに自分より圧倒的に上手な選手を目の当たりにして衝撃を受けていた。そこで少し自信を喪失したものの、こんなに良い選手がたくさんいる環境で泳げるなんて自分は幸せ者だ、と思えたのは幸いだった。そんな良い環境に身を置けた私は大会では悪くは無い結果を出せていた。  事の発端は、二年に進級したある日のミーティングのときのこと。そのミーティングは、今季の大会におけるリレーメンバーを発表するためのものだった。 「最後、Cチーム。小暮、立木、有沢、斉藤」  最後に呼ばれた名前に驚き、ばっと顔を上げた。私、メンバーに入ってる。隣に座っていた友人が小声で私に「かほ、かったね」と言ってくるのが微かに聞こえたが、現実感のわかない私は「うん……」としか返すことしか出来なかった。  リレーの選手に選ばれた部員のうち、二年生は私だけで、あとの八人は三年生だった。隣に座っている友人は中学から水泳を始めた子だったけど、その向こうにいる子たちは私と同じく小学校から水泳を習っていた子たちで、気に食わない、でもそれを表には出したくない、といったような、何とも言えない顔をしてこちらを見ていた。居心地悪く感じながらも、私はCチームの集まる場所へ行く。
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