一雫の憧憬

5/22
前へ
/22ページ
次へ
 それからの部活の時間は個人種目の練習をしつつ、リレーメンバーで集まって練習するようになった。二年生は私だけなので、私は自由形でほぼ決定。他の技術が必要な泳法は、先輩たちが何度かローテーションして決めることになった。 「うーん、背泳ぎが小暮ちゃん、平泳ぎが立木ちゃん、バタフライが私、自由形がかほちゃんかな」 「なんだ有沢、やっぱりバタフライじゃん」  ベンチを背にして立っていた私の後ろから突然声がして、驚いて後ろを振り向くと佐々木先輩が立っていた。 「佐々木くん、ここ、女子のプールなんだけど」  佐々木先輩は、第二プールの方で活動している男子競泳部の部長を務めている。 「コーチに用があるんだよ。ほら、俺が言った通りだっただろ? 有沢が一番肩幅が広いし」 「うるさいっ。コーチに用があるなら早く行ってよ!」 「はいはい。あ、君が斉藤さん?」  棒立ちだった私は突然顔を向けられたことに驚いて、頷くことしかできなかった。 「なるほどねー。有沢から話は聞いてるよ。このチームで二年は君だけだけどがんばれよ」 「は、はい。がんばります」  じゃー、と言って佐々木先輩は今度こそコーチの元に向かった。    有沢先輩はその後姿をしばらく見送っていたが、私達の視線が自分に集まっていることに気がついて、慌てて私達のリレーについての話を始めた。
/22ページ

最初のコメントを投稿しよう!

2人が本棚に入れています
本棚に追加